Stratam var. cochlea — 制作の記録
Stratam var. cochlea
この鉢が生まれるまでの話

島で聞いたこと
六月ごろ、ある島で作陶されている方を訪ねた。
作品があまりに素敵で、思わず話を伺ったところ、自然から受け取ったものをそのまま形にしているのだと教えてくださった。
自分もやってみよう、と思った。

軒下のカタツムリ
そう思ってひと月ほど経った、七月のはじめ。 自宅のアガベの白鯨を植え替えていたときのことだ。
軒下に、最近は見なくなったようなとても大きなカタツムリがいた。何度も見ているはずの生き物なのに、まじまじと見たのはそのときがはじめてだった。
形が良くて、背負っているものが重い。純粋にカッコ良さを感じた。
Stratam var. cochlea。
cochlea はラテン語で巻き貝、日本語にすると蝸牛だ。
上部の波も、中ほどの膨らみも、これまでのモデルにはなかった。
壁の中はこれまでどおりジャイロイドメッシュで、通気も軽さも落としていない。変えたのは形だけだ。
あの日のカタツムリの殻を、自分なりに表現してみた実験的なモデルだ。

月を背負う神
名前を決めたあとで知ったことがある。
アステカに、テクシステカトル(Tecuciztecatl)という月の神がいる。この神は、巨大なカタツムリの殻を背負った姿で描かれる。※諸説あり。
背負っている、という一点が、あの日の感想とそのまま重なった。
彼らにとって螺旋は、生と死が続いていく形だった。
カタツムリが殻の奥へ引いていく動きは、終わりではなく、次に出てくるまでの時間を意味した。
シュメールやバビロニアでも、螺旋の殻を持つ生き物は不滅とされている。
余談:StratamWorks がアステカの神の名を使うのは、これで二度目になる。DROP #03 のオーナー限定色は Tezcatlipoca だった。


三つの姿
限定は3色、それぞれ1点。
白ダレ
黒の層の上から、白が垂れる。
黒ダレ
白の層の上から、黒が垂れる。
反転
満ちて、欠けて、また満ちる。月の話をしたあとにこの三つを並べると、そう見えてくる。

12時間
一般的な黒一色の3Dプリントの鉢は、4時間ほどで出力が終わる。この鉢には最大12-18時間かける。
白と黒を物理的に切り替えているからだ。塗装ではない。
層そのものの色が変わる。0.4mm ずつ積み上がっていく途中で素材が入れ替わり、その境界が表面に出る。
効率で言えば3倍の時間がかかる。
それでも、塗装では層そのものの色は変えられない。

あなたの株のために
ここまで鉢の話をしてきたが、主役は鉢ではない。
陶器の約1/10 の軽さで、壁は呼吸している。棚の耐荷重も、水やりのたびの移動も、気にしなくていい。
あとは、あなたの株がここに入るだけだ。
その一株に似合う一鉢を仕立てる。植物が、鉢を着こなす。
DROP #05 / Stratam var. cochlea